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福岡高等裁判所 昭和24年(つ)1104号 判決

被告人

瀨川トシ子

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人辻丸勇次の控訴趣意第一点について。

本件は第一次的に窃盜として被告人は昭和二十四年一月十三日佐賀縣有田驛に於て林種貫所携の手提袋を切り破つて在中の現金一万九千五百円を盜み取つたものであるという事実に付起訴しこの被告人自らの窃取の事実が認められなければ被告人は同日同駅で右林が落した現金一万九千五百円を拾得橫領したものであるという事実に付遺失物橫領として起訴した事案である。それで原審は先づ右窃盜の事実の存否に付審理したが該事実は被告人において極力否認するのみならず他に適確な積極的証拠がなく、右遺失物構領の事実は被告人において自白するので他の証拠と相俟つて該事実を認定し被告人に対し有罪判決をするに至つた次第なることが本件記録を通じ看取できる。かような起訴の態樣と審判の経過に徴するとき、判決中に特に窃盜の事実を認めなかつた理由を示さなくとも、その趣旨であることは自ら明かであるから、之を以つて直に判決に理由を附せない違法があるとは云えない。從つて論旨は採用するを得ない。

(弁護人辻丸勇次の控訴趣意第一点)

本件は第一次に窃盜とし、予備的に遺失物橫領として起訴された事案である原審は之を遺失物橫領として処断し窃盜については如何に処置せられたかは不明であるが恐らく窃盜として処断するには証拠不充分であつたと思はれる抑々数罪を択一的に起訴された場合なれば別であるが、本件の如く豫備的に附加して起訴された場合は其の第一次の事実につき有罪として認められなかつた場合には、その理由を、判決の理由に示すべきであると思ふ。で窃盜につき判断の理由を示さなかつた原審判決は理由不備といふべきである。

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